LVMHの買収戦略
公開日: 2025-06-03
¥300(税抜き)
税込み: ¥330
内容紹介
シャネルやエルメスと肩を並べ、世界最大のラグジュアリー帝国を築き上げたLVMH。 その躍進を支えてきたのは、桁違いのM&A(企業買収)と、買収後にブランドを再生・拡張する巧みな統合手法でした。 本書は、ティファニー、ブルガリ、ロエベといった有名メゾンの舞台裏から、コスメのインキュベーション、ベルモンド買収による旅のポートフォリオ構築、さらにはメタバース×NFTの最新戦略まで――一次資料をもとに徹底解剖。 「数字が語る経営」と「人が紡ぐ物語」を一冊で読み解ける、これまでになかった“ラグジュアリー読本”です。 ◆本書で得られる主なポイント 買収案件の全貌 ブルガリ43億ユーロ、ティファニー158億ドル――巨額ディールの裏に隠れた交渉術と選別基準。 買収後100日プランの秘密 在庫棚卸し、価格統制、旗艦店の超短期改装…。再現性の高い“立て直しテンプレート”を具体例で解説。 DXとサステナビリティの最前線 2億5,000万IDを統合する顧客データ基盤、真贋証明ブロックチェーン、循環型リセール――最新テクノロジーと環境投資のリアル。 競合・独立系との比較 ケリング、リシュモン、シャネル、エルメス――“横展開型”と“深掘り型”の違いが一目でわかる構造分析。 未来の買収候補と拡張領域 ウェルネス、プレミアムフード、デジタルコレクティブル…次のM&Aターゲットを読み解く羅針盤。 ◆こんな方におすすめ ラグジュアリーブランドの経営やマーケティングに興味がある 企業買収・統合の実践ケースを学びたい ビジネス教養として“本物のブランド価値”を理解したい サステナビリティと高級ビジネスの両立に関心がある 華やかな広告の裏側で、ブランドを守り、伸ばし、未来へつなぐために何が行われているのか――。 読後には、ショーウィンドーの向こうにある「時間」「技」「戦略」が、クリアな輪郭を帯びて立ち上がるはずです。
本文サンプル
はじめに
真夜中のパリ・シャンゼリゼ通りを歩くと、日中の喧騒が嘘のように静まり返った通りの奥で、白い光を帯びたウィンドウ‐ディスプレイが浮かび上がります。深い藍色の夜空を背景に、金箔を貼ったモノグラムがやわらかく光を反射し、ガラスの内側に鎮座するバッグは、美術館の展示品のように厳かです。翌朝、同じブランドのロゴが香港国際空港の免税店にも、ニューヨーク・ソーホーの旗艦店にも姿を現し、少しも色褪せない輝きを見せつけます。この「世界同時多発のラグジュアリー体験」を演出する黒幕こそが、LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン――本書の主役です。
近年、私たちのスマートフォンには毎日のようにルイ・ヴィトンのスーツケースを持ったインフルエンサーや、ディオールの最新コレクションをまとった俳優が流れてきます。作り込まれた動画や広告の端々には、「特別でありながら、手を伸ばせば届きそうな洗練」を感じさせる魔法がかけられている。一方で、その舞台裏では多額の買収資金が動き、激しいブランド攻防戦が繰り広げられ、一本のシャンパーニュや一本の香水に至るまで精緻なサプライチェーンが脈打っています。LVMH は、こうした舞台装置を世界規模で統合し、しかも毎年のように新しい名門メゾンを仲間に引き入れながら進化を続ける「ラグジュアリー界の巨大帝国」です。
本書は、その帝国がどこから生まれ、どのように拡大し、いかにして次の成長ステージへ備えているのかを解き明かす一冊です。表向きの華やかさの裏にあるのは、ベルナール・アルノーという一人の経営者が描いたビジョン、株式市場を揺さぶる M&A の駆け引き、そして「伝統を守りながら革新を起こす」という一見矛盾した命題への挑戦です。
冒頭の序章では、まず読者の皆さんに LVMH という“巨人”の現在地を俯瞰していただきます。年間売上 14 兆円超、七十五のメゾンを束ねる企業グループが、いかにして唯一無二の経済圏を築き上げたのか。そのスケールを数字と実感の両面から感じ取っていただくことで、物語の入り口に立ってもらうのが狙いです。
続く第1章では、ラグジュアリー業界全体の構造を整理します。「高級品」とひと口に言っても、ハイファッションから時計、シャンパーニュ、さらにはビューティー小売まで守備範囲は広大です。市場規模や消費者動向、デジタル化の波を俯瞰することで、LVMH のプレーグラウンドがいかに複雑でダイナミックかを浮き彫りにします。
第2章では、ベルナール・アルノーの少年時代から最新の買収劇までを追い、その行動原理を読み解きます。「ブランドの本質をつかむためには、財務諸表よりもブティックの温度を感じろ」と語るアルノーの言葉から、彼がいかにして合理主義と感性を共存させてきたかが見えてくるはずです。
第3章から第5章にかけては、LVMH の買収戦略と、その後に待ち受ける統合プロセスを解剖します。「買ったら終わり」ではない――むしろ戦いはそこから始まります。異なる文化を持つメゾンをいかにして“同じ屋根の下”で輝かせるのか。人事、サプライチェーン、クリエイティブ、ブランディングのすべてに緻密なメソッドが存在し、成功と失敗のヒントが隠れています。
第6章では、大西洋をまたぐ成熟市場からアジア新興富裕層、さらにはメタバース上のバーチャル店舗まで、LVMH が挑む多層的な市場戦略をたどります。次いで第7章では、買収価格の高騰や景気後退リスク、ブランド価値毀損といった影の部分にスポットを当て、勝者にも避けられないリスクの実相を描きます。
第8章ではブルガリ、ティファニー、ロエベなどの買収事例をケーススタディとして深掘りし、現場で何が起こったのかを当事者の証言とともに再現します。第9章ではケリングやリシュモンとの比較を通して、ラグジュアリー業界の覇権争いの力学を明らかにします。
そして第10章ではサステナビリティ、 AI、ウェルネス化など「ラグジュアリーの未来」を左右するキーワードを整理し、LVMH が次に狙うであろう新しい買収ターゲットやビジネスモデルの可能性を大胆に予測します。
本書を読み終えたとき、読者の目に映る LVMH は、単なる「ハイブランドの集合体」ではなく、「文化・芸術・テクノロジー・金融が融合した現代の王国」として立体的に浮かび上がるはずです。そして、その王国が私たちの生活や価値観に密接に絡みつき、時には社会全体の進む方向を左右していることに気づくでしょう。
さあ、ウィンドウの向こうに広がる眩い世界の扉を少しだけ押し開けてみてください。革の匂い、シャンパーニュの泡、ジュエリーに反射する光――そこに潜む“買収と統合”のストーリーを知れば、ラグジュアリーはもはや遠い雲の上の存在ではなく、生きた経済ドラマとして胸に迫ってくるはずです。ページをめくるごとに、あなたの中の「ラグジュアリー観」が少しずつ書き換わっていく。その旅のはじまりへ、ご案内しましょう。